【東京リノ日和5】<まちとマンション探訪~東陽町・南砂>

東京リノ日和 まちとマンション探訪編の第一弾は、江東区の東陽町・南砂エリアの団地リノベーションにふさわしい2団地を訪ねてみました。

<太陽がいっぱい。子供広場と噴水のある中庭。東陽町住宅>

最初に向かったのが東京メトロ東西線「東陽町」徒歩7分の東陽町住宅です。14階建て総戸数390戸の大型物件です。

隣接地には西友東陽店があり、買い物便は最高です。

開放廊下側は、シンプルにRC手摺が連続する外観です。かつては単調、画一的、無個性などと批判されていましが、モノと意匠があふれる現在では、こうした70年代の団地ならではの素っ気ない感じが、むしろミニマルな構成美を感じさせてくれます。

東陽町住宅 外観

主開口側は、フロンテージの約半分のバルコニーが2戸1で設けられているという珍しいデザインです。この小ぶりなバルコニーと外側に露出された縦樋が垂直のアクセントになっています。ワイドなガラス開口からは明るい室内が想像できます。

東陽町住宅 外観

1階のピロティを抜けると建物に囲まれた日当たりのよい中庭に出ます。ブランコ、ジャングルジム、滑り台、砂場、パーゴラなどが設けられた広々とした子供広場になっています。

東陽町住宅 中庭 公園

当時の団地の設計では、建物を高層にするのと引換えに、地上にはできるだけオープンスペースを確保し、そこは子供の遊び場や家族の憩いの場に当てられていました。都市にあっても大地と切り離された生活にはならないようにという配慮です。

中庭の一画には緑に囲まれた噴水とベンチが置かれたプラザが設けられています。大きな亀と鯉が元気よく泳いでいます。街の喧騒から守られ、太陽の光が降り注ぐ静寂の空間。水の音が心地よく中庭に響きます。意外にも、身近にあるこうしたひと時の幸福感こそ、実は都会のオアシスと呼ぶのかもしれません。

東陽町住宅 中庭の噴水

住む世代が交代しながら、団地の持っている都市居住のための優れたインフラが、団地リノベーションによって現代の子育て家族に受け継がれていくわけです。

<堂々たる高層フォルム。モダニズムの「理想都市」。公社南砂住宅>

続いて訪ねたのが公社南砂住宅です。全8棟総戸数3,839戸(賃貸含む)という、江東区でも有数の大規模団地です。そのうち分譲棟は2号棟(14階建総戸数559戸)と8号棟(14階建総戸数511戸)の2棟。

敷地内には、保育園(なんと3箇所もあります)、幼稚園、小学校、中学校、児童館などをはじめ、郵便局、銀行、クリニックなどもそろっています。オーケー南砂店を始め、いきいき生鮮市場など商店街も充実しています。ここは団地内で暮らしのほとんどが完結できる大規模複合都市だといえます。

大規模物件ならではの迫力ある2号棟の開放廊下側の外観。14階建て500戸超の大規模な建物をこんな風に一枚の写真に納めることができるということ自体が、いかに周囲のオープンスペースが広大かを物語っています。

公社南砂住宅 外観

スラブの白とガラス手摺が積層する軽やかな構成のファサードです。2本のエレベータータワーの垂直の白のヴォリュームとフルハイトのガラス開口がモダンです。こうしたシンプルな構成になぜかピンクのアクセントカラーが導入されているということろが、日本の70年代の団地ならではのキュートさを感じさせてくれます。

広々とした芝生広場ごしに見たバルコニー側のファサード。雁行したフォルムと2戸1で設けられたバルコニーがリズム感を生んでいます。上下階で色やデザインの分節化をせずに、大きな空間のなかで高層建築の堂々たるフォルムをストレートに見せるという潔さです。

公社南砂住宅 外観

とにかく隣棟間のオープンスペースの広大さに驚かされます。涼しげな木陰、広々した芝生広場、親子が集まるベンチなど、そのゆとりある空間は、優に億ションの水準を超えています。いかにかつての団地が贅沢にオープンスペースを設けてきたかが実感できます。

公社南砂住宅  芝生広場

こちらは8号棟。こちらはペールグリーンがアクセントで使われています。2号棟と同様に8号棟も下層階を中心に鉄骨のブレースが設けられ、耐震補強工事がなされているのが分かります。団地のシンボルである、外観に記された号数表示がレトロモダンで素敵です。

公社南砂住宅 8号棟

巨匠ル・コルビュジエが提唱した理想都市「輝く都市」(La Ville Radieuse)が思い起こされます。そう、日本の団地はコルビュジエの理想都市を現実世界で実現した貴重な事例のひとつなのです。団地リノベーションは、そうしたモダニズムの思想の再評価ともいえるのかもしれません。

<心地よい水辺空間と昭和が残る砂町銀座商店街>

東陽町・南砂エリアは、都心に近い抜群の交通利便性と複数の大型スーパーなどがそろった買物利便性の高さで有名です。

こうした利便性に加え、このエリアの特筆される魅力として2点ご紹介しましょう。

第一は、心地よい水辺空間の魅力です。

江戸の物流の大動脈だった小名木川をはじめ、横十間川、仙台掘川、大横川など、このエリアには江戸時代からの水運の歴史を引き継ぐ川や運河が数多く残り、一部は親水公園や水辺のプロムナードなどに整備されています。

鬱蒼とした緑が育った仙台掘川公園

仙台掘川公園

さまざまな水辺の風景が現れる横十間親水公園

横十間親水公園

ちょっと足を伸ばせば、東に荒川、西に隅田川、南には塩浜運河をはじめ東京湾につづく数多くの運河もあります。

すぐそこに心地よい水辺空間があるという癒しの環境も、利便性だけではない、東陽町・南砂エリアの得がたい魅力です。

第二には砂町銀座の存在です。東京三大銀座のひとつと言われ、長さ670メートルの小路に約180店の商店が集積する都内有数の商店街です。ちなみにほかの二つは十条銀座と戸越銀座です。

幅の狭い道に小さな商店が並び、買い物客でにぎわう様子には、昭和の商店街の雰囲気が色濃く残っています。明治期から商店が集まっていたこの地が、昭和初期に砂町銀座と命名され、今のような商店街になったのは昭和30年代のこと。まさに昭和の歴史とともに歩んできた商店街です。

砂町銀座

八百屋、魚屋、肉屋、豆腐屋、酒屋などの食品店に混じって、総菜を扱っているお店が多いのが砂町銀座の特徴です。揚げ物、焼き鳥、煮物、漬け物、おでん、天ぷらなど、ここにくれば夕飯のおかずに事欠くことはありません。あさりや佃煮を扱うお店があるところなどは、かつて目の前が海だった歴史を偲ばせます。

砂町銀座のお惣菜屋さん

東陽町・南砂エリアは、近くに大型スーパーや複合ショッピングセンターがあるだけではなく、地域に根づいた庶民的な商店街で、おばあちゃんと並んで昭和価格(!)の惣菜をあれこれ物色するなど奥の深いライフスタイルが堪能できるのも、このエリアならではの魅力といえます。

*東陽町住宅

住所 : 東京都江東区4-12-20
交通 :東京メトロ東西線「東陽町」徒歩7分
総戸数 :390戸
構造・規模 : SRC造 地上14階建て
事業主 : 東京都住宅供給公社
分譲年 : 1973年

*公社南砂住宅(分譲2棟)

住所 : 東京都江東区2-3-2他
交通 : 東京メトロ東西線「東陽町」徒歩7分・8分
総戸数 :559戸(2号棟)、511戸(8号棟)
構造・規模 : SRC造 地上14階建て
事業主 : 東京都住宅供給公社
分譲年 : 1974年、1975年

text and photos by 大村哲弥(プロジェ代表)

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