リノベーションとマンションの人気トレンドの変遷

「リノベーション」という言葉がうまれて20年余。

2010年頃はアーリーアダプター層のものだった「リノベーション」も今やすっかり一般的になってきました。

リノベーションのトレンドの変遷をみていきましょう。

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リノまま編集部

リノままは「大きな企業の中の小さな設計事務所」として設計・工事・不動産それぞれの専門知識をもった少数精鋭のチームでひとりひとりのお客様と向き合っています

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リノベーションの10年間のトレンドの変遷

「リノベーション」という言葉は2000年前後にうまれた、と言われています。リノベーションの草分けともされる「ブルースタジオ」が事業を開始したのも2000年です。

その後徐々に「リノベーション」という言葉は世間に浸透していき今に至ります。

2010年頃からコロナ禍を経て現在にいたる大きな流れをみていきましょう。

アーリーアダプター層による「新築」へのアンチテーゼ

今から10年ほど前、まだ「リノベーション」は先進的なもので、

・そもそもリノベーションとは何か
・中古物件を買っても大丈夫なのか

の理解を得るのも簡単ではありませんでした。

新築マンション、中古マンションでも取引成約数はまだ新築マンションの方が多く、そもそも中古マンションを選択肢にいれる方の方が少数派です。

当時、「中古を買って、リノベーション」を選んだ方は新しいものに興味をもつアーリーアダプター層が中心でした。

そのためリノベーションのテイストとしても「新築にないもの」や「カフェのようなオシャレなもの」が人気を集めていました。

当時のリノベーションと言えば、「無垢フローリング」「壁や天井の躯体現し」「室内窓」「土間」あたりが人気で、ブルックリンやインダストリアルなどの「尖った」デザインを希望されるお客様が殆どでした。

間取りの考え方も、無理にでも部屋数をとって3LDKにするという新築へのアンチテーゼもあり、「広々したリビング」「寝室は狭く」「部屋数は減らす」というものが中心でした。

プランも素材も決して万人受けするようなものではありませんが、「せっかくリノベーションするのだから新築ではできないような個性的な住まいを手に入れたい」という想いが背景にあったのではないでしょうか?

コロナ禍を経た暮らしの変化を反映したリノベーション

2020年からコロナ禍に。リノベーション市場は打撃をうけるかと思いきやその逆。外にでられない「巣篭り」需要をうけて大いに盛り上がりました。

この時期に在宅ワーク、リモートワークが一般化していきました。また万が一感染したときに隔離できるように、と小さな個室空間が重宝されるようになったのもこの時期でした。

以前のリノベーション黎明期ではリビングの一角にスタディカウンターを設ける、といったプランが殆どでしたが、コロナ禍以降はPC机1個分程度のコンパクトな個室ワークスペースが求められたり、ご夫婦共働きの方は個室ワークスペースをお住まいの中に2ヶ所設置したり、と「本気の仕事モード」のための空間をお住まいの中につくるようになっていきました。

帰宅したらすぐにうがいや手洗いができるように、と洗面所を廊下に設置するようなプランも人気になりました。

いずれもコロナ禍でのトレンドの変化といえるでしょう。現在ではさらに進化して、ワークスペースの位置をリビングから遠く離したい、といったプランもでてきています。

人気のテイストの変遷

内装のテイストについては、ナチュラル・北欧は10年前より一貫して人気です。

一方でかつては人気だったブルックリンすらいるやインダストリアルといった無骨な雰囲気のデザインは今でも希望するお客様もいらっしゃるものの「リノベーション」の一般化に伴って相対的には減ってきています。

リノベーション自体のすそ野が広がったことによって、「尖った」デザインだけでなく、多くの人に好まれる普遍的なデザインを希望する方も増えてきた、ということでしょう。

ここ数年人気なのは「グレージュ」

「グレージュ」はグレーとベージュをあわせたような色合いのこと。落ち着いた雰囲気を演出できることから人気をあつめ、現在では新築でもリノベーションでも人気の定番テイストになっています。

新築マンションの人気トレンドの変遷

マンションにも新築で分譲された時代を反映した商品の人気トレンドがあります。1970年代に分譲された旧耐震・旧商品の時代から、さまざまな新規格が登場する2000年以降の分譲マンションに至るまで、新築マンションのトレンドもあわせてみてみましょう。

市場を反映するマンションの商品性


図-1は1976年から2014年にいたるまでの39年間の首都圏の新築マンションの供給戸数と平均価格の推移です。マンションの商品性は新築で分譲された時の市場に強く影響を受けています。図におけるマンションの築年数は2014年供給物件を築1年とカウントしています。

旧耐震・旧商品の時代(~1981年)

1970年代から1981年あたりに分譲されたマンションで、概ね築40年以上の物件。

この時期は地価上昇を背景に何回かのマンションブームと不況を繰り返しながら、都市型の居住形態としてマンションが普及してきた時代です。

82年竣工物件ぐらいまでは、基本的には旧耐震基準の建物が中心で、間取りも中LDKプラン(中央にLDKがありLDKに直接の採光がないプラン)が主流でした。この時代の物件の最大の特徴は、今ではなかなか望めない、都心や都内の利便性の高い立地、駅近の一等地などに建てられた物件が多いということでしょう。

リノベーション黎明期は特にこの時代の「立地のよい旧耐震の中古マンションを買って内装を思い切ったリノベーションにする」という方が多数いらっしゃいました。

商品企画の時代(1982年~86年)

1982年~1986年に分譲されたマンションで、概ね築40年前後の物件。

マンション市場は1982年あたりから、それまでの価格上昇による不況から回復して商品企画を競う時代に入りました。オートロックの採用が進み、遮音性に配慮した壁厚150mm、床厚150mmなどの物件も出始めました。

プランニングの面では雁行配棟(住戸をずらして配置することで外部に面する壁面が増える配棟方式)、2戸1エレベーター、ライコトート(住戸内に設けられた採光通風のためのヴォイド。廊下や洗面や浴室などに窓を設けたプランが可能)など、建築コストが上がってしまった現在では逆にほとんど見かけない高企画の物件などが見受けられるのもこの時期の特徴です。

電気容量は30~40A、給湯器は16号がほとんどであり、設備面では、現在から見るとやや見劣りがします。外壁タイル貼りやオートロックの普及率も半数程度に留まっていました。

バブルとバブルの崩壊の時代(1987年~93年)

1987年あたりから市場はバブルの様相を呈し始めます。価格が高騰し、物件が少なくなり、立地は遠隔化しました。「高遠狭」の時代です。

都内では億ションが当たり前、坪単価1,000万円を超える超高額マンションなども登場しました。1990年にバブルが崩壊し、1993年までは供給も少なく、価格が下落し続ける市場が続きます。

大量供給の開始、現在の基本性能の登場(1994年~99年)

1994年~1999年に分譲されたマンションで、概ね築30年程度の物件。

「高遠狭」といわれたバブル期から「安近広」の8万戸を超える大量供給時代が始まりました。壁厚180mm、床厚180~200mm、給湯器24号、電気容量は50~60A、さや管ヘッダー方式(さや菅方式とはさや菅のなかに給水菅を通した配管方式。給水菅の更新が容易になる。ヘッダー方式とは給水菅を途中で分岐させるのではなく元のヘッダーに直接給水菅をつなぐ方式。同時給水などにメリットがある)、二重床二重天井、フローリング、浴室乾燥機、床暖房など、この時期に現在の分譲マンションの基本性能が確立されています。

タワーマンション、アウトフレーム、非接触キー、ダブルオートロック、オーダーメイドマンションなどもこの時代を通じて広まっていきました。

共用部のオートロックや宅配ロッカーなどもしっかり設置されているマンションが多いので、現在の「中古を買って、リノベーション」では最も物件探しの狙い目になる年代です。

基本性能普及の時代、さまざまな新企画の登場(2000年以降)

2000年以降に分譲されたマンションで、概ね築25年以内の物件。

2000年に品確法(正式名称は、住宅の品質確保の促進等に関する法律。これによって住宅の性能表示や評価制度等が具体的になり、新築住宅の瑕疵担保責任期間は10年が義務化された)が施行。

2000年代を通じて住宅性能表示制度が徐々に普及し始め、多くのマンションで基本性能の底上げがなされた時代。

94年以降に登場した基本性能がほとんどの分譲マンションで当たり前になった時期です。2000年過ぎあたりからは、環境共生、省エネ、エコ、IT、免振・制震、防犯・防災、グッドデザイン賞などを謳う物件が登場し、これらは現在まで続くトレンドとなっています。

リノベーションのトレンドへの影響

先にも述べたように、リノベーションのトレンドは従来「新築にはないものを」「注文住宅でしかできないようなことを」中古住宅で実現する、といったものが中心でした。

一方で、「リノベーション済みマンション」として販売される物件は「中古マンションだけど内装は新築マンションと変わらない」という方針で商品企画されたものが多く、2010年代後半までは新築のトレンドがリノベ済みマンションの内装に反映される、という流れが中心でした。

2016年にはじめて首都圏の中古マンションの販売戸数が新築マンションの販売戸数を上回ると少し様相が変わってきます。

リノベーションでの人気アイテムだった「室内窓」、リノベーションのプランで多くみられた「広いリビング」「土間」「個室ワークスペース」などが一部の新築マンションにも取り入れられるようになってきました。

新築→リノベーションの流れが反転して、リノベーション→新築へ。リノベーションでアーリーアダプター層に人気をあつめてプランが新築マンションに導入されるというトレンドの逆転現象がすすんでいます。

かつての「新築信仰」は崩れつつあり、今や「中古+リノベーション」も「新築」も同列に語られる時代になってきたのです。

まとめ

リノベーションのトレンドの変化、新築マンションのトレンドの変化をざっくりとみてきました。

この変遷の中には私たちの住まいに対する考え方の変化がそのままつまっています。

「中古」が「古く劣ったもの」という感覚から「自分らしさを表現できるキャンバス」という感覚に変わってきたこと。「住まい」も画一的なものではなく、自分たちの暮らしにあわせて自由な発想でつくっていけるということ。

この10余年で変わってきた想いが今の「リノベーション」につながってきました。

バトンを受け取って、もっともっとリノベーションを面白くしてみたい、といった方は是非ご相談ください。