[著者]
リノまま編集部
リノままは「大きな企業の中の小さな設計事務所」として設計・工事・不動産それぞれの専門知識をもった少数精鋭のチームでひとりひとりのお客様と向き合っています
著者の詳しいプロフィール
不動産の価値って?
不動産の価値を算定するのは非常に難しいものです。なぜなら不動産は「同じものはこの世に二つと存在しない」唯一のものだからです。
駅からの徒歩分数が同じ、同じ棟内に入っている、広さが同じ、などなど、「似ている条件」のマンションがあったとしても決して「同じもの」ではありません。
そのため鉛筆一本が100円、消しゴム一個が150円、といった値付けはできません。この世に一つしかないものの価値を判断するためのヒントは不動産鑑定にあります。
不動産鑑定の手法
不動産の価値をはかるために、最も信頼できるのが「不動産鑑定」でしょう。
「不動産鑑定」は不動産鑑定士の資格を持つ者だけができるもので、時には時には公的な証拠の能力も備えることができます。
マンションの査定を考える上で参考になるのはこういった不動産鑑定のロジックです。不動産鑑定では3つの異なる手法を使って不動産の価値を算出します。
それぞれ簡単にポイントをご説明します。
取引事例比較法
評価したい対象不動産に対して、まず条件が似通った物件の取引事例を多数集めます。「取引事例」とは「その物件がいつ、いくらで売れたか」という実例のことです。
それらの実例の中から、対象不動産と条件が似ているものをピックアップします。その上で条件の補正をかけていきます。
「似ている」とはいっても「全く同じ」ではないのが不動産。例えば、対象不動産が「マンションの角部屋」だったのに対してピックアップした取引事例が「同じマンションの中住戸」であれば「事例の取引価格より~%は価格が加算されるだろう」といった作業を繰り返していくのです。
収益還元法
こちらは対象不動産が将来にわたってうみだす「収益」を予測して価格を算定する、というものです。
不動産であれば貸したときに入ってくる「家賃」が収益ですが、所有しているからといって同じ家賃が永遠にはいってくるわけではありません。
建物が老朽化すれば修繕するための費用もかかってきますし、収入となる家賃も段々減っていきます。こういった要素を全て盛り込んだ上で「現在価値」におきかえていきます。
少し難しい話をしましたが、要は「今後その不動産が生み出すと想定される収益の合計」が価格になる、という考え方です。
原価法
「もう一度同じ不動産を建てた場合にいくらかかるか」を評価額にする、というものです。
今の時点での建築に係る費用や土地を購入する費用を計算するだけでなく、対象不動産は「築〇年」と年数もたっているので、経年による価値の減少もあわせて計算します。
不動産鑑定ではこれらの異なる手法で同じ不動産の「価値」を様々な角度から算出し、最終的にはそれらを組み合わせて「鑑定価格」を求めていきます。
不動産査定の手法
不動産査定とは不動産会社が売買のために取引価値を予測するものです。ある物件を「売りたい」といった方がいた場合に、不動産会社は「いくらくらいなら売れる」といった具合に査定価格を出してくれます。
不動産査定の基本は取引事例比較法
基本的にはこの「査定」には「取引事例比較法」を用います。不動産会社がアクセスできるデータベースの「レインズ」には大量の不動産取引の実績データが登録されています。このほかにも不動産会社は有料のデータベースなどから、過去にどのような不動産がいくらで売り出されていたか、といった不動産広告を元にしたデータなどを取り寄せることもできます。
実際に売買が行われた価格の情報を数多くみることで「いくらで売れるか」を予測するのです。
机上査定と訪問査定
不動産会社が「いくらで売れるか」を査定する際、「机上査定」と「訪問査定」があります。どちらも取引事例の比較から査定することには変わりないのですが、実際に現地をみて「訪問査定」をおこなう方がその精度はあがります。
例えば、取引事例では同じマンションの1階と2階では何%程度取引価格が異なる、といったデータをみることができますが、それだけではわからない要素も沢山あります。
例えば同じマンションの2階の部屋同士でもある部屋は向かいの建物が邪魔になって日当たりがやや悪いけど、別の部屋では向かいが駐車場になっていて日当たりがよい、なんてことは現地を見ない限りはなかなかわかりません。
お部屋の中がきれいに使われているかいないか、なども実際の販売価格に影響します。
こういった「現地にいかないをわからないこと」を含めて過去の取引事例と比べたときの加算要素にしたり減算要素にしたりできるのが「訪問査定」です。
マンションの相場価格とマンション査定の関係は?
「中古マンション相場」とネットで検索をすると中古マンションのポータルサイトが検索結果として表示されます。
販売中の中古マンションを駅(地域)別に面積(間取り)と価格でクロス集計したものや駅(地域)と価格でクロス集計したものなどが相場比較表として掲載されています。
これを見れば販売中の中古マンションの駅や区市ごとの平均価格が一目で分かるようになっています。とはいえポータルサイトにある相場比較表では、比較可能な項目は駅や区市と面積のみとなっています。
そのため、気になる中古マンションが売りに出ていたからといって、その物件の価格が妥当かなどの個別マンションの相場や適正価格をポータルサイトの相場情報から判断できるわけではありません。
一方、マンション査定は「取引事例比較法」で過去に「実際にあった取引の実例」をもとに様々な補正を加えて気になるマンションそのものの「適正価格」を算出していくものです。
つまり、マンション査定は周辺の相場や取引事例から判断した「適正価格」を予想するために有効な手段といえるのです。
マンションは査定しやすい?
様々な不動産の中でマンションは査定がしやすいものです。
「同じものは二つとない」不動産ではありますが、「似た条件のものが沢山ある」のがマンションだからです。
多くのマンションでは同じ棟内での取引事例を見つけることができます。同じマンションの別のお部屋がいくらで売れたか、がわかれば、そのお部屋との広さの違いや向きの違い、階数の違いなどを加味すればいくらくらいで売れそうかが予測しやすいもの。
一方で戸建はそれぞれ立地も違えば広さ、形などが全て違ってしまうため、「似た条件のもの」を見つけ出すのも一苦労で、条件の補正自体もかなり困難です。
マンションの査定を中心にAIの活用がひろまっているのもこのような事情からです。
マンションの査定の流れ
それでは実際にマンションを査定する際の流れを少しだけみてみましょう。
できるだけ正確に査定するためには「補正する要素をできる限り減らす」のがコツです。
様々な条件の違いに応じて取引事例の金額を補正することは可能ですが、それらの操作を入れれば入れるほど金額のブレは大きくなります。
同じマンションの過去の取引事例をピックアップ
まず査定したいマンションと同じマンションの過去の取引事例をピックアップします。同じマンションであれば立地は(ほぼ)同じ、建物も同じなので、基本的な条件はほぼ同じです。
その際、できるだけ査定する現時点と日付の近い事例をみるようにしましょう。中古マンションの相場は毎年のように上がり続けているので、古くとも3年前程度までにしておく方が無難でしょう。
戸数が少ないマンションやできたばかりのマンションで取引事例が殆どないケースや、取引事例はあるものの5年以上のものしかない、といった場合は仕方ないのでできるだけ近い立地のマンションの事例をピックアップしましょう。
住所が同じ丁目にある、とか築年数がほぼ同じ、とか駅からの徒歩分数がほぼ同じ、といったマンションの事例を探します。
㎡単価(坪単価)にして比較
査定しようとするマンションとここまでピックアップした取引事例ではお部屋の広さが異なります。そのため取引事例の価格を必ず㎡単価にした上で比較するようにしましょう。
とはいえ、狭いマンションは相対的に㎡単価が高くなる/広いマンションは相対的に㎡単価が安くなる、といった傾向がありますし、マンションの「広さ」が大きく変わると「どんな方が購入するか」も変わってくるため市場性も替わるので単純な比較が難しくなってしまいます。
できるだけ近い広さの取引事例との比較にとどめつつ、㎡単価を利用する、というのがコツです。
比較する要素
次に査定しようとするマンションと取引事例で以下のようなポイントを比較します。
基本的な査定項目
・最寄駅からの徒歩分数
・築年数
・メインバルコニーの方位(日当たり要素)
・階数(眺望要素)
・土地権利(所有権、地上権、賃借権、定期借地権など)
・エレベーターの有無(エレベーター停止不停止)
・管理費の金額
居住環境項目
・騒音の有無(幹線道路、鉄道など)
・嫌悪施設の有無(ゴミ焼却場、高圧線など)
・バルコニー前面の日照阻害建物の有無
・マンション内の迷惑行為、不良住人など情報
心理的瑕疵項目
・住戸内の事件事故(殺人、自殺など)の有無
・マンション共用部分での事件事故の有無
あるとプラス評価項目
・角住戸
・最上階
・トランクルーム
・ルーフバルコニー付き
・庭付き
・専用駐車場付き
・フロントサービス
リノベーション前提項目
・アスベストの有無(撤去費用数十万円~百万円超)
該当する要素に対して取引事例よりも査定しようとするマンションの方が好条件であればプラス、悪条件であればマイナスの補正を加えていきます。
どの程度単価を補正するか、も非常に難しいところなのですが、例えば築年数が1年古くなると1%マイナス、といった形で査定するケースが多いようです。
所在階は一般的には上階になればなるほど加算要素になり、1階は防犯や水害リスクなどで嫌われやすいため1階と2階では大きく査定をプラスします。
但し、エレベーター無しの物件に関しては逆で、上階になればなるほど安くなる、という形になります。
また、忘れてはいけないのが採用した取引事例の「時期」です。そのエリアのマンションの相場が高くなっていた時期に販売された事例なのか、逆に震災直後やリーマンショック直後など相場が安くなっていた時期に販売された事例なのか、で意味は大きくことなります。
中古マンションの相場は経済情勢、住宅ローン金利、新築マンション価格、新築の供給戸数、建築費などによって変動しています。その変動率を掛け合わせれば現在の相場価格が算出できます。
こういった補正が「時点修正」です。
査定対象マンションの売値を算出する
このような形で取引事例を補正していくと査定対象のマンションの売値の「理論値」がいくつも計算できます。
当然ながらどの取引事例をもとに計算するかによって売値の「理論値」も高くなったり安くなったりします。
いくつもの「理論値」を計算してみた上で適正と思われる売値を算出します。
マンションの査定書のサンプル
それでは実際のマンションの査定書をみてみましょう。
実際の査定報告書例①
査定価格、査定の考え方、販売中物件や成約事例との比較内容、マーケット状況や物件の流通性などに言及しています。
実際の査定報告書例②
近隣の販売中物件、過去の成約事例と査定する物件を査定項目ごとに比較してポイントを付け、時点修正を加えて査定金額を算出しています。
購入時にマンション査定をおこなうメリット
実際に皆さんが購入を検討しているマンションには「~万円」と価格がついています。
それではすでに値付けされているのに中古マンションを購入する際、このような査定の知識があるとどんなメリットがあるのでしょうか?
相場より高い/安いがわかる
中古マンションの値付けは必ずしも相場通りになされているとは限りません。
同じマンションの隣同士の部屋が何百万円もの価格差で販売されている、というケースもよくあります。
中古マンションの売主の方は多くが個人の方です。物件を売り出すにあたってはそれぞれ様々な事情があります。
例えば「借入の返済のために売却する」といったケースでは相場価格とは関係なく返済ができる金額で値付けしている場合もありますし、「○○万円以上であれば売るけど、そうでなければ売れなくてもよい」といったケースでは相場価格より高い価格でもそのまま販売を続けている場合もあります。
逆に「〇月〇日までには何としても現金化したい」といったケースでは相場価格より安くとも販売している場合もあります。
「査定」がわかると、こういった様々な事情による値付けが果たして相場からみた「適正価格」といえるのかどうか、が見極められるようになります。すでに値付けされている物件を査定してみる最大のメリットはこの点です。
特にポータルサイトなどでみることができる物件の価格はあくまで「売り出し価格」です。まだ販売中になっているということは「その価格で実際に売れたわけではない」ので注意が必要です。
こういったポータルサイト等の価格や極端に「安い」「高い」物件に振り回されないような判断軸ができます。
購入時にマンション査定をおこなうデメリット
マンション査定をおこなうデメリットは逆に「査定価格」に振り回されてしまうこと、です。
逆に「査定価格」は様々な補正をしているとはいえ、「過去」の「取引事例」をベースにした「理論値」にすぎません。現在に向けて全体の相場が下がっている、あがっている、といった傾向が十分に反映できていない可能性もあります。
「理論値」である査定額にこだわりすぎて、「査定額より少し高い」というだけでご自身の予算や条件にみあった物件を買い逃してしまう、となっては本末転倒です。
あくまで「取引事例」をベースにしている以上、たとえ今までの相場からかけ離れた価格であっても、その価格で買う人がでてきたら、これからの未来にはその「高い価格」が新しい相場をつくっていくことになるのです。
相場とかけ離れたマンションを購入する際の注意点
実際に物件探しをしていると、相場から算出した査定価格よりもはるかに高い値付けのマンションや安い値付けのマンションに出会うことがしばしばあります。
そういった相場とかけ離れたマンションの購入判断をする際の注意点は以下の通りです。
相場より高い場合
・値引き交渉をしてもらう
・待てば値下げする可能性があるかどうかを判断する(売却理由などの調査)
・同じように購入検討している人がいるかどうかを調査する
相場より安い場合
・資金化を急いでいる、など安くする理由があるかどうかを判断する(売却理由などの調査)
・この物件特有のマイナス要素がないかどうか探る(隣人トラブルなど、査定上ではみえない要素の有無)
相場より「安い」からといって無条件で飛びつくのは危険です。安くするなんらかの理由がある可能性が高いため、その理由を探った上で、物件の隠れたリスクを見極めてから購入判断するようにしましょう。
相場より「高い」といっても高い理由は様々です。昨今のように中古マンションがどんどん値上がりしている状況では、どのマンションも理論値よりも高くなる、といったケースもありえます。
物件を購入する、という大きな決断では必ず理論だけでは判断できない部分があります。
自分たちの予算やその他の条件をみたとき、「相場より少し高そうだけど買ってもよい物件かな」と思えるかどうか、最後に決断するのはあなた自身である、ということだけは忘れないようにしましょう。
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