マンションの寿命
- 公開日:2015.8.28
- 更新日:2023.11.15
中古マンションの購入を考えている方にとって、
「あと一体何年住めるんだろう?」というのは気になるポイントです。
とはいえ、マンションの「寿命」として決められた数字があるわけでもありません。
ここでは建て替えの時期やコンクリートそのものの寿命といった観点からマンションの寿命を考えてみましょう。
目次
建て替え時期からみるマンションの「寿命」
日本は住宅が短命?
すべての住宅が入れ替わるのに何年かかるかを国際比較した調査があります。日本では30年と、アメリカの103年、イギリスの141年に比べ、極端に短いサイクルで住宅が滅失したり、建替えられていることがわかります。
一方、こうした数字は、日本においても築30年を超えた戸建やマンションが現実に住み続けられており、中古市場でも取引が年々増えているという現実に合致しない感じもします。
マンションの建て替え時期は?
先の他国との比較、は「全ての住宅」を対象にしています。そのため木造戸建てや鉄筋コンクリートのマンションなど全てを対象にした平均年数です。
マンションだけの寿命を考えるとどうなのでしょう?
東京都から公表された「マンションの建て替えが行われた実例」をみてみましょう。マンションの寿命は全国平均で33.4年、東京都のマンションで40.0年となっています。
また、東京都で行われたマンションの建て替え実例を紐解いた結果、築36~築50年のマンションがそのうちの約75%を占めています。
とはいえ築36年と築50年では大きくかわります。
建て替えるかどうか、というのは純粋な建物の寿命、ということではなく、建て替える側の意思が多分に働いています。
税法上の「寿命」
マンションには税法上の資産価値があります。
固定資産税、不動産取得税、登録免許税など各種の税金を計算するための基準となる元となる数字で、「固定資産評価額」とよばれます。新築時から築年数を経るごとに少しずつ減っていき最終的にはほぼゼロに近くなっていきます。
この資産価値が減り続ける期間を「法定耐用年数」と呼び「鉄筋コンクリートでつくられた住宅」に定められた法定耐用年数は47年と定められています。
つまり新築から47年経過すると税法上ではマンションの建物の価値はなくなってしまう、ということになります。
ただこの「法定耐用年数」はあくまで建物の実際の使用年数を踏まえて適宜改正されていくものです。ストック型社会を目指す昨今で建物をメンテナンスしながら長く活用するように考え方も変わってきています。「法定耐用年数」はこのような社会的な背景から資産の活用法が変化すれば変更されることもありうるものです。
「これまでの日本社会がどんな風に建物を活用してきたか」を反映したものにすぎないので決して建物の物理的な寿命から設定されたものではありません。
平均余命の考え方からみるマンションの「寿命」
2011年の調査と少しデータはふるいのですが、住宅の平均寿命を人間の平均寿命と同様の考え方で推計した調査があります。この調査ではマンション(RC造共同住宅)の平均寿命は約60年と推定されています。ちなみに戸建(木造専用住宅)の平均寿命も約58年とマンションと同じような長さです。
図-2からは年々平均寿命が伸びていることもわかります。これは材料や施工やメンテナンスなどの技術が進み、以前に作られた建物に比べ長持ちするようになってきているからです。おそらく、今後もますます長寿化することは確実でしょう。
これまでの日本の住宅が30年程度の短い期間で建て替わってきたのは、建物の寿命がきたからというよりは、スクラップ&ビルドが当たり前だったというこれまでの価値観によることろが大きかったようです。
コンクリートの「寿命」
マンションなどのRC造の住宅の法的な耐用年数は47年とされていますが、実際の耐用年数はどのくらいなのでしょうか?
マンションはコンクリートでできた躯体とそれ以外の外装、内装、設備などで大きく耐用年数が異なります。
RC造の建物は躯体はコンクリートが中性化することで耐力が低下することが知られています。中性化とは、アルカリ性のコンクリートに大気中のCO2が侵入し中性化することによって、内部の鉄筋などが腐食し、コンクリートがひび割れや剥離を引き起こし、耐力が低下する現象です。
コンクリートの中性化は躯体の寿命を短くしてしまい、結果的にマンションの寿命も短くなってしまいます。
中性化の速度はコンクリートの質、外装材、大気中のCO2の濃度などによって大きく変わります。30年程度でかぶり厚(鉄筋の周りのコンクリートの厚みのこと)の3センチまで達している事例もあれば、同じ年数がたっていてもほとんど中性化していない建物もあります。
躯体の耐用年数は外壁の仕上げやマンションが置かれて環境によって大きく異なるのが現実です。
コンクリートの中性化は、中性化しにくいコンクリートを用いたり、かぶり厚を厚くしたり、タイル貼りなどのCO2が侵入しにくい外装にすることによって、その速度を抑えることができます。また、中性化が進んだ状態でもきちんと補修や中性化対策などを施せば耐力の低下を防ぐことも可能です。
コンクリートの実際の耐用年数に関しては、さまざまな調査がなされており、50年以上、117年、120年あるいは150年など諸説がありますが、先にみた日本の住宅の建て替わりの期間などに比べて思った以上に長持ちする見解が多いことが注目されます。
日本におけるRC造の共同住宅のさきがけとなった同潤会アパートの多くは、その多くが建替え・取り壊しまで70年以上利用されてきたという事実もあります。
マンションは管理の状態で「寿命」が変わる
先に述べたようにコンクリートの躯体はメンテナンス次第でその「寿命」が大きく変わります。
一方躯体以外の外装や内装や設備は、どちらかというと消耗品です。したがって、それぞれの耐用年数で修繕や交換を行う必要が出てきます。
躯体に問題がなくても配管などの不具合が生じれば、その時点で住宅としては価値がなくなってしまいます。
躯体のメンテナンスや外装や内装、設備の修繕や交換を適切に進められるかどうか、がマンションの「管理」にかかってきます。マンションの管理の見方のポイントを少しみていきましょう。
長期修繕計画とその内容が重要
マンションの建物全体のメンテナンスをこの先30年程度にわたって、スケジューリングしているのが長期修繕計画です。
現在では殆どのマンションが長期修繕計画を作成していますが、当然ながら単に「作成していればよい」というものではありません。長期修繕計画を作成し運用していくのはあくまでマンションの所有者の方で構成している「管理組合」です。
「管理組合」が、要は住民の方自身がどのくらい建物全体の管理に高い意識をもっているか、がこの長期修繕計画にあらわれてきます。
・長期修繕計画に重要な項目が含まれているか
・計画した工事が実施可能なだけの修繕積立金を用意するための資金計画があるか
・しっかり計画にそって適正に工事を実施しているか
以上の3点が重要なポイントでこことみると「管理組合」のスタンスもうっすらと見えてきます。
大まかには、塗装やシーリングや防水などは10~15年、電気や給水管や配水管などは20~30年、エレベーターなども30年程度で更新が必要になるといわれています。
特に配管やエレベーターの交換時期といわれる築30~40年前後はターニングポイントです。これらの工事には数千万円~1億円を超えるような費用がかかるケースもあります。
築年数が50年を超えるような古いマンションであればこういった配管や設備の更新工事を実施できたかどうか、築年数が20~30年程度のマンションであればこういったターニングポイントに向けて修繕積立金の用意ができているかどうか、などを見ておく必要があります。
長期修繕計画や資金計画がしっかりしていても、実際には殆ど工事をおこなっておらず資金計画上の数字と現在の修繕積立金の残高が大きく乖離してしまっている、というマンションも要注意です。良い計画があっても実施されなければ意味はありません。
こういった建物のメンテナンスの計画と実行がマンションの「寿命」の鍵を握るものなので、特に築30~40年前後の配管や設備の更新をしっかり乗り越えられるマンションは長寿になるのではないでしょうか?
寿命を終えたマンションはどうなる?
マンションはその寿命を終えると建て替えて新しい建物にする、取り壊してそのまま土地を売却する、といった判断をすることになります。
とはいえ、建て替えや取り壊しには、各住戸の所有者による「管理組合」の5分の4以上の賛成による決議で建て替え可能や全組合員による決議によって取り壊しが可能、とかなり高いハードルが設けられています。
これらの要件は4分の3以上の賛成などに緩和する案が議論されているのですが、いずれにしても簡単に進められることではないのは変わりありません。
建て替えや取り壊しもできないまま、徒に建物が老朽化していくとどんどんマンションの資産価値は失われてしまいます。
建物自体を「長寿」に保つのも、寿命を全うしたのちに「建て替え」や「取り壊し」をスムーズに進めていくのも「管理組合」である住民の方々自身なのです。
まとめ
イギリスでの住宅の建て替わりの期間が141年だったことを思えば、日本のマンションもきちんとメンテナンスすることによって100年、150年と長持ちさせることは可能でしょう。
でもマンションの「寿命」に最も大きく影響するのは実際に住んでいる方の「意識」です。
しっかり管理されているマンションを買って、その後は自分たち自身も管理組合の一員としてかかわっていく、「長寿」マンションを手に入れるにはあなた自身のこれからの努力も必要なのです。