団地リノベーションのすすめ
- 公開日:2016.11.4
- 更新日:2023.10.20
旧住宅公団(現在の都市再生機構)や住宅供給公社が開発した集合住宅、
いわゆる団地をリノベーションして住む「団地リノベーション」が注目されています。
物件価格が割安、住環境がよいといった魅力がいわれている一方で
団地ならではの注意点はあるのでしょうか?
今回は「団地リノベーション」について掘り下げていきます。
団地リノベーションとは?
団地リノベーションとは文字通り、いわゆる「団地」を購入してリノベーションして住まう、というものです。
広い意味では「中古マンションを買ってリノベーション」の一種ですが、特に「団地リノベーション」といわれて注目されるだけの魅力があります。
「団地」という言葉は「一体で使われる土地」を意味するものなので、まとめて開発されたエリアは「団地」とよばれますし、一戸建てがならんだ集落のような場所も「団地」と呼ばれることもあります。
が、一般的に「団地」とは多くの棟が立ち並ぶ共同住宅のことをさします。
1960~70年代以降の高度経済成長期に都市部での住宅不足を補うために、旧住宅公団や住宅供給公社が建てた「~団地」や「~住宅」と呼ばれるものが代表的なものです。
団地リノベーションが注目をあつめる大きな要因はこうした「団地」ならではの魅力に集約されています。
団地の魅力
それではなぜそんな「団地リノベーション」が注目されているのでしょう?一般的にいわれる「団地」は現在では築30年を超える古い物件ばかりです。そんな古さに起因する団地ならではの魅力を順にみていきます。
シンプルなモダニズムデザインの建物
一番目は、一見そっけなく見えるぐらいに機能性に徹した建物です。
余分なものがない、シンプルでスタンダードなモノが持っている潔い魅力です。
旧住宅公団をはじめ、団地の設計思想の根底には、
工業化時代における人間にふさわしいデザインを希求したモダニズムの精神が横たわっています。
モダニズムから約100年、モノとデザインが溢れるなか、住むための機能を第一に考え、
余計な装飾を排した簡素な団地の佇まいは、逆に新鮮に感じられるようになってきました。
シンプル志向、ミニマル志向の今の時代の価値観にふさわしい<用の美>といえるかもしれません。
贅沢な緑とオープンスペース
二番目は、緑とオープンスペースの贅沢さです。
冬場でも十分に日照が得られるように確保されたゆとりある隣棟間隔、大きな並木が植えられたプロムナード、
街角に設けられたベンチが置かれたプラザ、児童公園や近隣公園など大小の公園、芝生広場や遊具広場などのいくつもの広場、
東京とは思えない鬱蒼とした森に育ったグリーンベルトなど、団地は民間の開発ではとても考えられない豊富な緑とゆったりとしたオープンスペースが確保されています。
都内でこれだけの充実した緑とオープンスペースが確保されたマンションは、団地以外では億ションしかないと断言できます。
時を経たシャビーな味わい
三番目に揚げたいのは、経年によるシャビーな味わいやレトロなキュートさです。
分譲団地の多くは1970年代から1980年代前半、昭和でいうと昭和40年代後半から昭和50年代に建てられています。
築30年以上たった団地の建物は、今の新築にはない、時を経た味わいを醸し出しています。
また、ピロティ、露出配管、集合郵便受けなど、最近ではあまり見かけない、実質本位のデザインや仕様などが見られるのも団地好きの楽しみのひとつです。
築年数が古いとはいえ、一定規模以上の団地では、耐震補強が実施されている物件も多く、安心材料の一つといえます。
子育て、共働きにぴったりのコミュニティ環境
四番目は、子育て家族や共働き家族にふさわしいコミュニティー環境です。
団地の敷地内は、一見、人気がなく閑散としていそうに思えますが、
団地は一定の規模があり、暮らしている人も多く、要所にオープンスペースが設けられているため、
実際の団地の敷地内は、誰かしら歩いていたり、佇んでいたり、話し込んでいたりなど、
人の気配と人の目が感じられる空間となっています。
子供同士の交流、ママ友間の情報交換、多世代の人々とのつながりなど、
団地では、普通のマンションに住むよりもずっと、さまざまなコミュニケーションの機会に恵まれています。
また、大規模団地では、敷地内に幼稚園や保育園が整備され、大型の商業施設も設けられているなど、
毎日の暮らしの利便性の面からみても、子育て層や共働き層にふさわしいコミュニティ環境が整っています。
物件が比較的安い
団地は築年数が古く、大規模物件なので同じ団地内で売り出し中の物件もいくつか出てくることが多いため、総じて物件価格は安く、取引相場も安定しやすいものです。
東京では江東区、品川区、練馬区などの都心隣接区の一等地にも団地がありますが、これらは利便性や環境の良さとのバランスをみるとお買い得といえるかもしれません。
団地リノベーションの注意点
それでも団地リノベーションでは物件の安さにひかれて安易に買ってしまうのは失敗のもと。団地を買ってリノベーションを検討する方にとって注意すべき点を確認しておきましょう。
旧耐震基準の物件が多い
団地リノベーションで物件選びでの注意点は「築古マンション」の注意点とほぼ同じです。
※築古マンションの注意点はコチラ
⇒リノまま【知る・調べる】築50年のマンションは何年住める?メリットとデメリットを詳しく解説
団地が数多く建てられた時期が1970~80年代なのでどうしても旧耐震基準の物件が多くなります。そのため、耐震性や住宅ローンの審査での不安はつきまといます。
ただ、後に述べるように低層で壁構造の建物も多いので、耐震診断の結果、基準値を満たしていたという建物もあれば、規模の大きさを活かして耐震補強工事を実施している建物もあります。
エレベータ―無しの物件が多い
団地の多くは5階建てくらいの低層の建物が沢山立ち並んでいる、というものです。そのため「エレベーター無し」の物件が多いです。
「エレベーター無し」の団地では1階や2階といった下階の物件価格が高く、5階などの上階の物件価格が安くなる、という現象がおきます。
物件探しをしていて、「同じ棟内なのに上階の方が安い」「5階建て前後の低層の団地」といったお部屋を検討する際には注意しましょう。
また、エレベーターはあるものの、停止する階と停止しない階がある、という「スキップフロア」の物件もよくあります。
例えば7階建てのマンションで、エレベーターの停止階が1階・4階・7階のみ、といった場合、5階のお部屋にいくには「4階までエレベーターを使ってその後階段でのぼる」「7階までエレベーターを使ってその後階段でおりる」のどちらかになります。
こういった「スキップフロア」の物件についてはSUUMOやat home、HOME’Sなどのポータルサイト上では詳細までは書かれず、単に「エレベーター有」になっていることが多いです。南北ともにバルコニーがあるお部屋などは要注意です。
壁構造の物件が多い
築年数が古い「5階建てくらいまでの低層の建物」は多くが「壁構造」とよばれる構造になっています。
「壁構造」では耐力壁と呼ばれる壁によって建物を支えているため、お住まいの中で「壊せない壁」があり、リノベーションでの間取り変更に制限がでてきてしまいます。
特に水回りが耐力壁で囲まれている物件などではキッチンを対面式にする、お風呂を広くする、といった対応が難しいケースもあります。
壁構造の物件かどうか、は図面をみるだけである程度は判別できるので注意してみておくようにしましょう。
※エレベーター無しの注意点や壁構造・ラーメン構造の見分け方など、物件選びの注意点はコチラ
⇒リノまま【知る・調べる】中古マンションの物件選びの極意 物件調査や内見のポイントと注意点
電気やガスの容量とネット環境
築古物件では電気やガスの容量に制限があるケースがあります。例えば電気が30Aまで、とされていたり、給湯器のサイズが20号とよばれるものまでだったり、といったケースです。
電気やガスの容量アップについては可能な場合もありますが、物件によっては建物全体の容量とのかねあいでサイズアップができないこともあります。
ネット環境についても光回線をどこまで引き込むことができるか、などは見落としやすいポイントですがしっかりチェックしておきましょう。
その他築古物件としての注意点
他にも築古物件ならではの注意点がいくつかあります。
お風呂がユニットバスではなく「在来工法」とよばれる防水加工した床や壁にタイルなどを貼ってしあげている、という物件がよくあります。
リノベーションでは手軽に施工できる上に、防水性に優れ、費用もおさえられるユニットバスに変更したい、という方が多いでしょうが、この在来工法の浴室の構造によってはユニットバスが入れられない、といったケースがあります。
ユニットバスが入らず、同じように在来工法でリノベーションする、となるとリノベーション費用が大きくかさむ可能性がでてきてしまいます。
断熱性が低い、というのも築古物件の注意点です。北側の壁に断熱材をいれる、といった対応をしていないケースが多いため、リノベーションにあたってはどこまで対応するかは別としても断熱改修分も含めてリノベ費に余裕をみておく方が無難です。
年々規制が厳しくなりつつある有害物質の「アスベスト」。古い物件では、天井に「ひる石」と呼ばれる吹付材が使用されているケースがあります。しっかり除去してしまえば心配いりませんが、飛散しやすいものなので、除去費用がかさむ可能性があります。
団地リノベーションの費用
リノベーション費用の目安については、フルリノベーションの場合、1㎡あたり16万円~22万円程度と、マンション同様です。
但し、団地の物件は築古物件が多いこと、エレベーター無しの物件が多いこと、等から上記の目安の中でもやや高め、1㎡あたり20万円前後まで費用がかさんでくるケースも多いことでしょう。
団地の場合は物件価格が割安になる傾向があるので、その分の一部(あるいは全部)をリノベーション費用にまわす、といった考え方で予算を組むのが理想です。
団地リノベーションの事例
ここでは実際にリノままで「団地リノベーション」をした方の事例をみていきましょう。団地ならではの魅力と注意点をどんな風に「暮らし」の中に溶け込ませているのでしょうか?
事例1) 壁紙×13
天井が低い、梁が目立つ、ユニットバスが入らない、といった古い団地ならではのリノベーションの難点をうまく解消して、南仏を思わせる明るくカラフルな住まいが完成しました。
事例2)八潮団地の生活
「部屋」や「間仕切り」を殆どなくし、床や壁の素材の違いや子上がりの段差など、視線の変化や手触りの違いで空間を仕切ったお住まい。仲の良いご家族は同じ団地の中に住むお母さまとスープが冷めない距離で暮らしています。
事例3)団地のなかの小学校
緑に囲まれた環境でお子様がのびのび育っていくことを願って、「小学校」をテーマにリノベーションしたお住まい。音楽室、図画工作室、図書室、と様々なモチーフが各お部屋に散りばめられています。
事例4)団地×プレーン
エレベーター無しの団地の最上階5階。でも天井高が4mという開放感に惹かれてこのお住まいに決めたご夫婦。普通のマンションにはない魅力のあるお住まいです。
どのお住まいも団地ならではの環境のよさや物件そのものの特性を活かして家族で過ごす時間を充実させています。これからの「暮らし」を探していく中で何を大切にするかは人それぞれ。中古マンションを買ってリノベーションを検討する方にとって、団地リノベーションという選択肢もなかなか魅力的ではないでしょうか?