ARTICLE壁と遮音性
- 公開日:2018.10.16
- 更新日:2019.12.27
リノベーションに限らずマンション生活で最も気になるのは音の問題です。
今回は壁と遮音性の関係をとりあげます。
戸境壁の二重壁は直壁に比べ遮音性が劣るといわれますが実際はどうなのでしょう?
目次
戸境壁(隣の住戸との境の壁。界壁とも呼ぶ)の二重壁は直壁に比べ遮音性が劣るといわれますが実際はどうなのでしょう?
原理的には<床と遮音性(1)>でみたように、遮音層の間に空気層を設けた二重構造は、高周波数域での遮音性は向上しますが、低周波数域では空気層がばねとなった共鳴透過(いわゆる太鼓現象)により遮音性が低下します。
これは二重壁の場合も同様といえます。
現実的には隣戸間で問題になる音は、主に話し声やTVの音などの生活音であり、音の伝わり方でいうと空気伝播が中心です。
これらの比較的、周波数が高い音域の音が壁を透過して伝わる際には二重壁は有効に働き、遮音性は上がります。
二重壁は、
(1)躯体の不陸(ふろく。ふりくとも。施工精度の関係で生じる表面上のわずかな凹凸)などを気にしなくてよく、施工効率が高いこと
(2)コンセントやピクチャーレールなどを自由に設けられること
(3)壁に釘を打ったり棚などを取りつけたりすることができること
(4)窓際から断熱材が折り返してくる箇所の壁面の段差が解消でき、すっきりとした空間になること
などのメリットがあります。
一方でピアノの低い音や床に重いものを落とした際の音などの低い周波数の音や壁を直接叩いた際の音などの固体振動で伝わる音に関しては、二重壁は共鳴透過による遮音性の低下の懸念があります。
特に躯体壁(コンクリートの構造壁)にボンドで直接、プラスターボードを貼ったGL工法による二重壁は注意が必要です。
空気層が薄く、普通の生活音のような周波数の高い音域でも共鳴透過が起きやすく、かつボードが躯体と接着されているため振動も伝わりやすいなど、遮音性が著しく低くなってしまうからです。
最近の分譲マンションでは図-1のように木や軽量鉄骨(LGS)などで躯体壁とは縁を切った下地を作り、100ミリ程度の空気層を設けてプラスターボードを貼った、ふかし壁工法による二重壁が一般的となっており、共鳴透過に対する対策が施されています。
二重床の場合、部屋と部屋の間の壁(間仕切り壁)の納まりには、全室の床を貼ってから床の上に壁を建てる床先行工法と、各部屋の壁を先にコンクリートスラブの上に立ててから各部屋ごとに床を貼る壁先行工法の二通りがあります(図-2 『集合住宅の音環境 – 乾式二重床のQ&A – (改定) 床衝撃音研究会』より)。
それぞれのメリット、デメリットを比較してみましょう。
壁先行工法は、床下からの音の廻りこみや下地材を通じた振動の伝播がないなど、隣室に対する遮音性が高まるのがメリットです。
<床と遮音性(2)>でみたように下の階の住戸への遮音性を実現するには、床と壁の取り合い部分の納まりが重要です。
壁先行工法の場合はすべての壁ごとに床と壁の取り合い部分の2~3ミリの隙間を適切に管理する必要があり、高い施工精度が求められることや、施工時間や工事コストがかさむことなどがデメリットとして挙げられます。
逆に、床先行工法は床と壁の取り合いの管理箇所が少なく、均一な施工精度の達成が容易になることや施工時間の短縮が可能になり工事コストが抑制できることがメリットです。
床先行工法のデメリットとしては、隣室間の遮音性がやや劣ることが挙げられます。
ただし隣室への音は床下からよりも扉のアンダーカットを通じて伝わる影響が大きく、壁先行と床先行の実際の遮音性の違いはさほど大きくはないという実験結果が出されています(『集合住宅の音環境 – 乾式二重床のQ&A – (改定) 床衝撃音研究会』より)。
床先行工法は将来の間取り変更などが容易だといわれていますがどうでしょうか?
実際は床先行の場合でもフリープラン対応(壁を立てる箇所の床下の補強が要らないように床の剛性を高めた仕様)でなければ、将来の可変性はさほど変わりません。
フリープラン対応以外の仕様では、床先行の場合も、壁の新設や撤去に際して、床下に新たに補強材を設ける必要があり、壁先行の場合と同様に、変更する壁の周辺の床や天井を広い範囲でいったん解体して、新たに床と天井を設ける必要があるからです。
現在の分譲マンションでは、施工精度や施工効率の観点から床先行施工が増えています。
その場合は隣室間でフローリングの下地材を縁切りして振動が伝わらないようにすることや壁のプラスターボードを二重貼りにするなどによって遮音性を上げています。
壁先行工法と床先行工法のそれぞれメリットとデメリットを踏まえた上で、物件や間取りに合わせた納得にいく提案と施工をしてくれるリノベーション会社を選びたいものです。