床と遮音性
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リノまま編集部

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遮音性のポイント1 スラブの厚さと面積

音は空気の振動です。

音は床や壁などを透過して伝わる空気伝播と床や壁を振動させて伝わる固体伝播によって伝わります。

床の遮音性で特に問題になるのは床材とコンクリートスラブを振動させて伝わる音です。

スラブは厚ければ遮音性は高いと良くいわれますが一概にそうはいえません。

図-1は日本建築学会によるスラブ厚とスラブ面積と遮音性の関係の表です。

これをみると遮音性はスラブ厚とスラブ面積に関係していることがわかります。

遮音性が高いのは振動しにくい厚くてかつ小さいスラブです。

日本建築学会による集合住宅の標準(一級)性能の遮音等級の目安は、重量床衝撃音でL-50(あるいはLH-50)、軽量衝撃音でL-45(あるいはLL-45)とされています。

図-1の青く塗った部分です。

建物の遮音性能を表すL値と呼ばれるこの等級は数字が小さいほど遮音性が高いことを意味しています。

例えばスラブ厚が150ミリでも小梁によってスラブ面積が半分に分割されているマンションの場合は、スラブ厚200mmの場合と同じ程度の遮音性を持った躯体であると評価されます。

今の新築マンションのスラブ厚は200ミリ以上で小梁をなるべく入れないという構造が一般的となっていますが、築年数が古く、スラブ厚がそこまで厚くないマンションの場合でも、小梁によってスラブが分割されているプランなどの場合は、意外に遮音性は高いと評価できます。

遮音性のポイント2 二重床の留意点

マンションの床の構造は、スラブに直接フローリングが張ってある直床か下地を組んでその上にフローリングを貼った二重床のいずれかが一般的です(図-2)。

床とスラブの中間に空気層がある二重床の方が直床よりも遮音性が高いのでしょうか?

これも一概にいえません。

二重床は周波数の低い音域では中間の空気層がばねとなって床やスラブが共振してしまう共鳴透過現象が起こり、逆に遮音性が低下してしまうことが知られています。

いわゆる太鼓現象と呼ばれているものです。

二重床は軽いものを落としたりした時の音のような軽量衝撃音(高い周波数の音)に対しては直床に比べ遮音性が上がりますが、逆に重いものを落としたりした時の音のような重量衝撃音(低い周波数の音)に対しては逆に不利に働きます。

マンションの音の問題で最も多いのは、床から伝わる足音などの重量衝撃音に対する苦情です。

二重床での音の可聴域での遮音性低下を避けるためには、中間の空気層を大きくする、あるいはスラブの重量を重くする、つまり厚くするなどの手法が有効です。

現在の分譲マンションの主流となっているになっている空気層が100ミリ前後、スラブ厚200ミリなどの二重床はこうした課題に対応した仕様にしているわけです。

また、工法が複雑で部材も多い二重床の場合は、遮音性はその納まりなどの施工性にも大きく影響される点にも留意する必要があります。

逆にいうと直床だからといって遮音性が劣るとは一概にいえません。

むしろ中間の空気層による共鳴透過がないという点や、部材が少なく施工精度の問題が少ないという点では、二重床よりも安心な面もあるといえます。

直床の物件でも水廻りだけは二重床になっているマンションの場合は、配管のメンテナンスなどの心配も要りません。直床の場合は、高い周波数の音域の軽量衝撃音に配慮した床材を組み合わせるとより効果的といえます。

二重床の遮音性を上げたいということで、空気層に吸音材などを詰めることはどうでしょうか?

もともとグラスウールなどの吸音材は高い周波数に対しては効果がありますが、低い周波数ではあまり効果がありません。

逆に中間層の空気の流通を妨げ、低い周波数で共鳴透過を増幅してしまい逆効果になるケースもあることに注意しておきましょう。

遮音性のポイント3 フローリングの遮音等級

床材であるフローリングの遮音等級は、2008年まではL-50のように表記されていましたが、この「推定L値」とよばれる表記が建物自体の遮音性能を示す「L値」と誤解されやすいこと、また統一された試験方法がなかったなどの理由から廃止になり、現在は(財)日本建築総合試験所「床材の床衝撃音低減性能の等級表示指針」に基いた⊿等級(デルタ等級)が新しい基準として使われています(図-1)。

この⊿等級は、あくまでフローリングだけの性能を評価しており、統一された試験方法に基づき、製品が周波数音域に応じて、スラブ素面の場合(コンクリートスラブだけの場合)と比較してどれだけ音圧を低減させるかの下限値で等級表示をしています。

低減する値が大きければそれだけ遮音性が高いと評価できます。

まず、図-1でみるように重量衝撃音⊿LHに関しては、総じて下限値がマイナス(逆に音が増幅されて大きくなるということ)になっており、二重床フローリングは重量衝撃音に対しては遮音の効果をあまり期待できない、ということが分かります。

これはいわゆる太鼓現象によるマイナス効果です。

逆に軽量衝撃音に対する遮音性能は効果は高いことがわかります。

一般的には以前のLL45等級に相当するのが⊿LL-4等級と解釈している場合が多いようです。

重量衝撃音に関しては、低周波域で下限値がマイナスにならない⊿LH-3がひとつの目安になると思われます。

実際の遮音性能は床材として使用するフローリング製品によって異なります。

⊿LH-2や⊿LH-3の等級の製品でも重量衝撃音に対して概ねプラスの効果が確認されている試験結果の製品もあります。

表示されている等級だけでなく実際の試験結果を確認したいところです。

ちなみに直床対応のフローリング製品は、重量衝撃音に関してはスラブ素面と同一(つまり低減量±0)と見なされていますので、遮音等級は軽量衝撃音に関する等級⊿LLだけしか表示されていません。

遮音性のポイント4 二重床の壁際の納まり

最後に二重床の場合は、施行上の納まりの違いによっても遮音性に大きな違いが出るという話です。

二重床の共鳴透過現象による遮音性の低下を抑えるには、中間の空気層を大きく、スラブの厚さを厚くすると効果的です。

さらにこのマイナスを抑えるには、中間の空気層が密閉されて太鼓状態にならないように壁際の端部に隙間を設けることが重要であることがわかっています。

図-2はポイント3でみたフローリングの遮音等級を評価する際の基準とされている標準型試験体の断面です(『集合住宅の音環境 – 乾式二重床のQ&A – (改定) 床衝撃音研究会』)。

具体的には太鼓現象を抑えるために、床と壁が取り合う箇所や床と幅木(はばき)が取り合う箇所に関して、図-2のように2~3ミリ以上の隙間を設けた納まりにするわけです。

少し前のマンションではこうした隙間を設けていない物件も見受けられました。

また、こうしたミリ単位の高い施工精度を実現するのは工業製品であれば簡単ですが、現場での加工をともなう建築工事の場合は、すべて均一に実現することはなかなか容易でないことも事実です。

住んでいるうちに床材の反りや壁の沈み込み、あるいは埃などで隙間が埋まってしまうことも考えられます。

二重床の遮音性を判断する場合は、スラブ厚やフローリングの遮音性能に加え、こうした施工上の納まりにも留意する必要があるということになります。


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